Blogかわきせ日記帳

鳥の目と虫の目で障害や福祉を考える

こんにちは、かわきせ日記帳の木村です。
いろいろなSNSがありますが、最近はめっきりThreadsです。アルゴリズムを一生懸命調節したおかげで(見たくない単語や画像をひたすらブロック)、タイムラインの80%はかわいいネコチャンとイッヌとうさぎさんの画像、残りの20%はお花と洋裁という夢のような世界。わたしの書き込みは昨今「虎に翼」の感想ばかりですが、なにかと澱みがちなXとは違って空気が澄んでいるので気が楽です。
とはいえ、行政書士の先生方はXで告知されることも多いので、アカウントを新しくして告知と情報収集中心に利用しようかと思案しています。

■障害から切り離された境界知能枠

普段は家にこもりがちな私ですが、今日は珍しく数人の方と障害福祉に関するお話をする機会がありました。その中に、発揮しづらい能力や苦手な行動はあるものの障害とは見なされず健常者として生活している、いわゆるグレーゾーンにいる人々の就業支援をされているという方がおられました。
現在の知的障害の認定基準は、IQ(知能指数)が70未満または75未満であり(都道府県で異なる)、日常生活に援助の必要がある者、とされています。つまりIQが70または75以上あれば、いくら日常生活に援助の必要があっても知的障害には当てはまりません。日経ビジネスの記事において、『ケーキの切れない非行少年たち』の著者である立命館大学教授・医学博士の宮口幸治氏は「そもそもIQで区切ってしまうことが問題」であり、「気づかれない境界知能と軽度知的障害」にさまざまな問題の根本があると指摘しています。

図参照:宮口幸治著『マンガでわかる 境界知能とグレーゾーンの子どもたち』(扶桑社)

1965〜1974におけるWHOの国際疾病分類:ICD-8では、境界知能の「IQ70~85」も知的障害の枠に含まれ、全人口の14%が当てはまるとされていました。しかし、平田正吾・奥住秀之の論文*によれば「当時の一般的な考え方として,知的障害は人口の3%ほどとされて」いたため、「3%に落とし込むために,1961年のマニュアルでは,知的障害をIQだけでなく,日常生活における問題,すなわち適応行動の面からも定義することが新たに盛り込まれ」ました。しかしこの基準は無視されやすく過剰診断も増えたため、「1973年のAAIDDのマニュアルから,境界域を知的障害の下位分類から外すこととし,IQのカットオフポイントは70」となったのです。
こうして、障害者ではないができないこともある「グレーゾーン」が誕生することになりました。極端に、片づけられない、手順通りにできない、二つのことを並行してできない、という人は意外と多いものです。事実、自分の子どもに学習障害や知的障害の疑いがあると聞いたことがある友人は一人や二人ではありません。よく聞いてみると、漢字が分裂して見えて覚えられない、落ち着いて座っていられない、すぐ散らかしてしまうなど、内容もさまざま。私の周辺でさえそうなのですから、本当によくあることなのだと思います。

ずいぶん長いこと「部屋が片づけられない」と話していた友人が、あることをきっかけに病院でテストをしたら、ADHDだとわかったということがありました。彼はクリエイターなので、「薬を呑んだら整理整頓はマシになったけど創作意欲が薄くなった」と結局薬を飲むのをやめてしまったそうです。グレーゾーンにいる人たち全員が悩むばかりなのかというと、それも正解とは言えません。創作の源のためにはむしろ必要で、だからこそ作品へと昇華できる彼のような場合もあるからです。グレーゾーンに存在しながらも、本来なら弱さや足りなさと言われる部分が自らの強みになっている。それはグレーゾーンの人の中では、とても幸せなほうなのだと思います。世の中には、彼のように弱い部分を活かせるような活動や生き方が見つけられず、困っている人の方が圧倒的に多いはずだからです。大きな括りで見ると、今、最も見過ごされがちな環境にあるのは、もしかすると障害者の枠から切り離されたグレーゾーンの人たちとも言えるのかもしれません。

*東京学芸大学教育実践研究紀要 第19集 pp. 99-102,2023「知的障害概念についてのノート(2)~境界知能の現在~」平田正吾・奥住秀之

■細かな違いを忘れずに、大きな目でも捉え直してみる

物理的な話で言えば、健康な人でも歳を取れば緑内障や白内障で目が見えにくくなったり、筋力が落ちて脚が上げにくくなったり、骨が脆くなって簡単に折れたりします。でも、それはあくまで老化であって障害とは言われません。事故で骨折をしたり火傷をしたりすれば年齢を問わず日常生活に不便をきたします。それが1年も続くような大きなものだったとしても、それはあくまでけがのせいで障害とはやっぱり言われません。

障害のある人、グレーゾーンの人、けがをした人、歳をとった人。存在的にはまったく別物ですが、みんな何かしらの不便さを感じてことは間違いのない事実です。そういう意味でも、障害福祉サービスに関わろうとする者として、障害という言葉だけにフォーカスしすぎることなく、鳥の目と虫の目を行き来して考えていかなければならないことを改めて実感させられました。最近見ているドラマ「JKと六法全書」には、ここぞという場面で主人公がつぶやく「鳥のまなぐで物事は平に見なけりゃなんねえ」という言葉があります。この分野をフラットに考えるためには、まさにその「鳥のまなぐ」も大事なのだと思っています。

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